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東京高等裁判所 昭和54年(行ス)8号 決定 1979年8月09日

抗告人

中央労働委員会

右代表者会長

平田冨太郎

右指定代理人

雄川一郎

外三名

相手方

吉野石膏株式会社

右代表者

須藤恒雄

右代理人

和田良一

外三名

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一抗告の趣旨は、「原決定を取消し、本件を東京地方裁判所に差し戻す。」との裁判を求めるというのであり、抗告の理由は別紙一記載のとおりであり、これに対する相手方の反論は別紙二記載のとおりである。

二抗告の理由一について

抗告人は、要するに、「原決定が抗告人の本件救済命令の適否を審査して本件緊急命令の申立を却下したのは、緊急命令制度の本質を誤解し、労働組合法第二七条第八項の解釈を誤つたものである。受訴裁判所としては、即時救済の必要性の有無のみを審査すべきであつて、救済命令自体の適否を審査すべきではない。」と主張する。

いわゆる「緊急命令」の制度は、労働委員会の救済命令の取消を求める訴が提起された場合において、受訴裁判所が、当該労働委員会の申立により、使用者に対し、当該事件の判決の確定に至るまで、暫定的に、当該救済命令の全部又は一部に従うべき旨を命ずることができることとし、もつて団結権の侵害を防止することを目的とするものと解される。

そして、緊急命令の制度の目的がこのようなものであるとすれば、緊急命令の申立の許否を決するに当つては、受訴裁判所は、当該救済命令の適否及びいわゆる「即時救済の必要性」の有無について審査することができるものと解するのが相当である。けだし、右に述べた同制度の目的に照らし、労働委員会の救済命令の適法性に重大な疑義があるときは、当該労働委員会の申立があつたとしても、受訴裁判所が緊急命令を発することは相当でないというべきであり、その重大な疑義の有無は当該救済命令の審査を経ることなくして判断しえないからである。

もつとも、緊急命令の手続においては、確定的に当該救済命令の適否を判断することは要請されていないから、右審査は、緊急命令の手続の過程に現われた疎明資料をもつて、当該救済命令の認定判断に重大な疑義があるかどうかを検討すれば足りるものというべきである。

以上の次第で、抗告人の前記主張は失当であるといわざるをえない。

三抗告の理由二について

抗告人は、要するに、原決定が即時救済の必要性の有無についてなんら判断することなく、本件救済命令の維持可能性に疑義があるという理由だけで、緊急命令を発することが相当でないとしたのは違法であると主張するものと解される。

そして、原決定が即時救済の必要性の有無について判断することなく本件緊急命令の申立を却下していることは、抗告人主張のとおりであるが、救済命令の適法性に重大な疑義すなわちその維持可能性に疑義がある場合において緊急命令を発することが相当でないことは前記のとおりであるから、抗告人の右主張は失当というべきである。

四本件救済命令について

1  本件救済命令の要旨は原決定説示のとおりであるから、それ(原決定二枚目表二行目から同三枚目表六行目まで)をここに引用する(ただし、同二枚目表二行目及び六行目の「申立人」を「再審査被申立人」と、同四行目の「被申立人」を「同命令の再審査申立人」と改め、同裏八行目から九行目にかけ「これらの人数比からみると、」とあるのを削除し、同三枚目表四行目の「ものであり、」を「ものである。」と改め、同行目「その論旨」から同六行目「られる。」までを削除する。)。

2  ところが、本件記録によれば、次の事実が一応認められる。

(一)  相手方は、直島工場の稼動に伴う西日本方面の販売体制を強化し、併せて人事停滞を防ぐための定期異動の一環として本件人事異動を行なつたものであり、その実施にあたつては、地方へ妻帯者を配置転換した場合、住宅の手配や子弟の教育問題等で種々の不都合が生ずることを考慮し、まず地方勤務の経験のない独身者を地方に配置転換する方針をとつた。

(二)  本件人事異動の当時、本社フロアーには二八名の独身の地方勤務未経験者がいたが、そのうち二二名が分会員で、六名が非分会員であり、地方配置転換の内示を受けた者は九名で全員分会員であるが、分会員で本社フロアー内で異動するものも三名あつた。また、本来の意味での本社フロアー(東京支店の相模原、千葉、長野の各営業所を除くもの)には二三名の独身の地方勤務未経験者がいたが、そのうち二〇名が分会員で、非分会員は三名であり、この意味での本社フロアーから地方へ配置転換の内示を受けた者は八名(その後発令された者は七名)であり、いずれも分会員であつた。

右(一)、(二)の事実によれば、相手方が地方へ配置転換する者を選定する際に立てた基準は特に不合理なものということはできないし、また、地方へ配置転換の内示を受けた九名又は八名の全部が分会員であることも、独身の地方勤務未経験者中に占める分会員の割合、すなわち二八名中二二名あるいは二三名中二〇名という割合からみて、必ずしも不自然なものとはいえない。

のみならず、右に述べた独身の地方勤務未経験者中に分会員の占める割合を前提とすれば、特定の分会員の配置転換について、他の者に優先して配置転換すべき事情がないということだけでは、その人選が不自然であるとしえないものというべきである。そして、そのほかにも、本件配置転換について、その人選を不自然なものとするような事情は、本件記録上、認められない。

右に述べたとおり、本件人事異動における基準が不合理なものではなく、高橋及び小太刀を他の者に優先して配置転換すべき事情がなかつたとしても、同異動において地方へ配置転換の内示を受けた九名又は八名の全部が分会員であることが不自然ではないとすれば、本件救済命令が認定したような背景事情があつたとしても、本件配置転換は相手方が同人らを分会員であるがゆえに地方へ配置転換したものであり、分会員を本社フロアーから排除する趣旨であつたと断定することはできない。

3  以上の次第で、本件救済命令には、その重要な論拠の部分に事実の誤認があり、その適法性について疑義があるから、現段階において緊急命令を発するのは相当でないというべきである。

五よつて、本件申立を却下した原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(枡田文郎 山田忠治 佐藤栄一)

別紙一、二<省略>

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